色彩の尽きぬところ 8
完全に光を遮断した暗室で眼を開けていても、真の暗黒が見えるわけではありません。
眼の生理的機能が継続されているかぎり、一種の灰色のもやのような明るさが感じられ、決して真っ暗には感じられないのです。
画像の消えたテレビ画面を見てみると、一様な灰色をしているだけですが、スイッチを入れて映像が現われると、画面の中にちゃんと黒い色が見えはじめる、という事実も黒という色の秘密を解くひとつの鍵になるかもしれません。
人間の感覚にとって、黒という色は単なる光の欠除によって感じられる色のひとつではなく、光の刺激があるのです。
あるいは他の何かの色を同時に見ることによって、はじめて黒に見える色だということです。
可能なかぎり真っ黒な黒を見るということを目的として、「キルヒホフの暗箱」という奇妙な装置が考案されています。
この装置は、内部に黒羅紗を貼った灰色の箱の表面に、小さな円形の窓を開けて、その丸い穴の周囲を白い輪で囲んだだけの、馬鹿馬鹿しくなるほど簡単なただの箱にすぎません。
しかし、この穴を通して見える黒が、日常見られる色の中ではもっとも真の黒に近い黒だということになっています。